ネガティブにデータサイエンティストでもないブログ

経済統計屋。気分悪くなったらごめんなさい (´・д・`) ゴメンネ データサイエンティストという呼称が好きじゃないんです https://twitter.com/dscax

とあるレンタルビデオ屋とビールと映画記事の経済効果

三部作?のラストの予定だったのですが、時差ボケダウンで尻すぼみだった中編は書き直しますので一度引っ込めます。なのでこれが後編です。前作を読んでいなくても読めます。

 

シネマアナリティクス : ゼロから分析力を磨きたい人に観てほしいマニアック映画5つ(洋画編)

http://negative.hateblo.jp/entry/2013/09/11/153406

の続きです。

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画像はイメージです。

 

複数店舗を経営するレンタルビデオ屋のオーナーが居酒屋でクダ巻いてました。それもそのはず、TSUTAYAとGEOで過半数を占めるレンタルビデオ業界は前年割れの続く厳しい業界です。私は仕事の話を終えて、レンタルビデオ業界の景気はどうなっているのと聞きました。

 

「俺はレンタルビデオ店がレンタルビデオ業界だと思っていないよ。飲食店だと思っている。」

 

その答えに痺れました。市場性の本質を突くものだと思いました。市場性とは自社が本当はどの業界にいるのかを知り、自社サービスと訴求対象となる人々の認識を理解することです。現在の買い手(顧客)はテクノロジーの進化によって「売り込まれる」ことに過敏なため、逆に嫌気がさして買わなくなってきているのは事実です。そのため、市場性の理解が重要です。市場性とは、調査やテストや事前データから読み取りにくいことであり、そのために物事の周縁と少し先の未来を見つめ、顧客の意欲と動機を理解し、認識する必要があります。市場性がマーケティングと少し違うのは、市場性とは事前に行われるものであり、正しく行われるのであれば費用はかからないということです。

  

最近ちょっとしたブームなのか、映画紹介、流行ってきましたね。ありがたいことです。たぶんレンタルビデオ屋さんは喜んでいます。なぜでしょうか。それをお話したいと思います。

  

「物語」を読み込みたい人に贈る映画5本

http://azanaerunawano5to4.hatenablog.com/entry/2013/09/13/122825

この方はすごくよく映画を見ている人だと思います。視点にこだわりがある。エレファントは私も好きです。

 

ラスト・伏線・どんでん返しがすごい!本当に面白い映画10選

http://matome.naver.jp/odai/2137931492284044701

もっとクソ映画に高い金払って勉強したほうがいいよと思う選択の軽さ。あんまり映画見てない方でしょ。でもNAVERは稼げてなんぼね。

 

映画に限りませんが、このへんは学習曲線というかPageRankアルゴリズムを応用した、にわかとマニアな選択分岐点のわかる面白い分類方法があるので、そのうち紹介したいと思います。

 

その他、たくさんのおすすめ映画まとめリスト

http://matome.naver.jp/topic/1M0FL

NAVERまとめってほんと敏感で素晴らしいと思います。良い映画が掘り起こされてほしいです。

 

映画がたくさん視られてほしい立場なので、この状況は願ったりです。だいたい目的は果たしたと勝手に思いました。次のネタに「こだわり派とにわか派における映画の選択傾向の法則」、「人間無視のアルゴリズムで選ぶ、おすすめ映画TOP1000(多すぎ)」とかやってみますかね。

 

今回はネットでそれなりに動きがあったのなら実社会ではどうなのか。なかなか世の中に出てこない隠されたテーマを語りたいと思います。

 

ということで、レンタルビデオ屋(いわゆる実店舗)をイメージしてください。そこにおけるDVDの品数(在庫)とはいかにして決まっているでしょうか。

  

ネットのように制約が無さ過ぎるものと違いまして、ほぼすべての業態の店舗は売場面積が、かなり重要な要素となってきます。売場面積は簡単に変動できないので、ほぼすべての業態では限られた面積でいかに売上を最大化するかという問題に帰着されます。レンタルビデオ屋ならば、どれだけの種類のレンタルコンテンツをいかに限られたスペースで陳列し、回転(品切れなく効率よくレンタル)させて売上最大を目指すかは永遠の課題です。

 

例えばレンタルビデオの横でゲーム売っている物販の合わせ技な店舗もありますが、それはつまり商品ではなく売上高/売場面積の最適化を考えてのことです。レンタルビデオという業態が先ではないのです。

  

某大手レンタルビデオチェーンにもデータサイエンティストがいるならば、データ量と設備を誇ってる場合じゃなくて、もっと良い在庫回転率と在庫最適化にしたらいいのにと思うでしょう。

 

しかし、実際にやってみると、とても厳しい問題でした。

 

何の映画をどれくらいの品数で陳列したらよいのかは実に難しい問題です。新しい映画とは、ほぼ未知の変数ですから、ビッグデータだ、データサイエンスだ、などといったところで、そう簡単にはわかることではありません。私がビッグデータやデータサイエンティストをさも救世主だとかセクシーだとか万能扱いする記事を嫌う理由がまさにこれです。

 

今までのデータから傾向がわかる継続的な要素ならば、既存データがあるほど強いです。それは試行における大数の法則としても明らかです。しかし、今までの傾向を打ち壊す存在について、既存データはほとんど無力なんですよ。万能などころか先入観を補強する足枷の場合すらあります。

これはアルゴリズムに傾注しがちなエンジニアや、ソーシャル大好きマーケッター、ブームがすべてジャーナリストにはわかりにくいことです。実際の現場とデータに触れていない人ほど実感しにくいことです。もちろん売上はある程度は分布に従うとは思います。しかし映画は基本的に同じ作品はありません。ワールド・ウォー Z (World War Z )が、ゾンビ映画だからといって過去のゾンビ映画の売上実績が参考になるでしょうかということです。投機の世界では、そういうデータ主義のアンチテーゼ的な分析方法もあってアベノミクス前までは結構、良い成績だったりしました。

 

だからレンタルビデオ屋の事前データとしては、映画の劇場公開の興行収入(動員数)くらいしか参考にならない(もう少し変数ありますけど)という、なんとも頼りないデータしかほとんどないわけです。ミニシアター系あるいは劇場公開すらしてない場合、もうまったく話題すらないので、もうほとんどデータはありません。立地差、店舗差、地域差による値の分散も激しいです。

 

中古ゲーム市場でも売れたゲームほど値崩れする現象でも明らかなように、たいした根拠もなくても、レンタルでは見込みで新品を入荷し、陳列せざるを得ないわけです。Amazonのレコメンドのようにお薦めを提示することもリアル店舗では難しい問題です。なぜなら客は皆、名前順とジャンルで探すことに慣れているからであり、レコメンドでその順列を崩したら、かえって探せずに不満が募るでしょう。

  

そうです。レンタルビデオ屋とはデータ的には極寒の不毛の地なのです。

  

また機会損失よりも最適化の傾向が強いため、人気がないならすぐに(売場面積のために)すぐに消すことはありますが、人気が出た後からDVD枚数を追加するなんてほとんどありません。最初にDVDを5枚入荷して順次、減らしていくのはOKですが、1枚がすぐ品切れになるからといって5枚追加したりしません。そういうときは回転率のために1週間レンタルを2泊3日したりします。

 

だから邦画界の愛すべき駄作、興行成績が火の鳥になっているガッチャマンもレンタルビデオではたくさん並ぶでしょう。それは間違いありません。話題と作品の評価を取り違えざるをえない(分離できない)からです。加えて商売上の理屈や版権や、いくつかの闇も変数として加わります。場合によっては株より難しい予測が求められる世界です。株よりシビアではありませんが、すごく興味深いデータ(そして当たりとハズレ)な予測をする現場です。

 

もちろん他にも、マーケティング、キャンペーン、陳列、回転率、レイアウト、在庫調整、人件費、バイトの色恋問題、DVDケースをシャッフルする困った客、延滞金の取り立てバックレ、子供のDVDが少ないとキレるモンペア・・・大なり小なり問題だらけで大変みたいです。

 

映画好きな私はたまに彼を趣味的に手伝っています。そのモチベーションはもちろん、自分のオアシスを維持するためにです。年とって落ち着いたら自分もレンタルビデオ屋でも構えて勝手に分析に明け暮れたいところですが、カキ氷屋ほどすぐにはできません。

 

ということでネットほどに実店舗は、Pivotもできず機動性もないわけです。そして有限面積における在庫最適化はすごく重要です。そして需要予測の当てにくい世界。このへんにビックデータがあれば改善していくんですかね。あまりそう思えないんですけど。

そこで予測が当てにくい世界であるという前提に立つならば、当てる未来を自分で作るしかないのです。つまり予言の自己成就を目指すしかありません。在庫最適化の次は自前で需要創出というわけです。いろいろ勉強になりました。

 

最後に経済価値をささっと算出してみましょう。オーナー的には面倒は困るというのでネットでの実名公表は控えさせていただきますが、都内のとある店舗における前回のおすすめ映画5作品のレンタル実績(合計)です。ご協力感謝なのですが、大人の事情により、とても読みにくい印刷されたデータを手入力をしたので根気的にこれが精一杯です。どうか伝わってください。蛇足ですが他2店舗も上がっていたのは確認済みです。

  

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とある1実店舗における映画5作品の合計レンタル回数(記事投稿は9/11)

 

これぞ人力の伝統的アドテクノロジー。経済効果感じますね。ステルスでもない市場性。効果を実感しています。素晴らしいですね。ちなみに9/14が0件ですが貸出中(在庫切れ)が80%に達していたためです。

 

ここは比較的顧客も多い中規模店舗なので多いので割り引いて(マニアックなので在庫がない場合も考慮して)1店舗あたり、記事による増分効果を平均3件とおきましょう。新作じゃないド旧作なのでレンタル料金一本200円とします。レンタルビデオ店店舗数http://todo-ran.com/t/kiji/15331より、2013年の店舗数をざっくり3500と仮定すると、

 

1記事

=1店舗あたり +3本レンタル効果×200円 = 1店舗あたり売上増分 +600円

=全国のレンタルビデオ屋経済効果 600円×3500店舗 = +210万円

 

お、とても妥当っぽい経済効果が推定できました。本ブログでは料率3%とおくと売上63000円な依頼記事や講演とすると8割引かれて12600円あたりが取り分。1万円くらいですね。他のいろいろ映画おすすめ記事もこんな感じの経済効果ありそうですね。

 

 

という話をしたらレンタルビデオ屋のオーナーはビール(売上増分相当600円)おごってくれました。

 

どうもありがとうございました。

 

 

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シネマアナリティクス : ゼロから分析力を磨きたい人に観てほしいマニアック映画5つ(洋画編)

http://negative.hateblo.jp/entry/2013/09/11/153406

本記事の前編です。どれも面白い映画なので秋の夜長にぜひどうぞ。

 

労働の二極化に抵抗する、上級者への簡単な道~とあるカキ氷屋の統計技師(データサイエンティスト)

http://negative.hateblo.jp/entry/2013/09/03/200255

誰もやらないことをやりたい派なんです。悲観的な人間なので何かしないと不安で。

 

お詫び:

中編は見直すとめちゃくちゃショボくなってたので改めて書き直します。時差ボケで頭ボケでした。ひっこめてしまった数万件データの話にフォーカスします。

@id:tjoid:tonerikoenid:webdevid:K-granola、@

他、みなさま、ごめんなさい。