ネガティブにデータサイエンティストでもないブログ

経済統計屋。気分悪くなったらごめんなさい (´・д・`) ゴメンネ データサイエンティストという呼称が好きじゃないんです https://twitter.com/dscax

知識労働者であり続けるために、必要そうだけれど実は必要のない10の行動

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風邪ひきダウンで、だいぶ遅れに遅れましたが、年末総括その3 組織、労働編です。

 

年末ということで自分のいる営利組織、非営利コミュニティなんか振り返ることもある方が多いのではないかと思います。そこで今回は、知識労働型の組織で錯覚しがちで、間違っていると思われる行動について指摘します。主に分析屋の視点ですが、技術職、専門職の方は自分に置き換えても、共通するところがあるかと思います。

 

文中には知識労働者という呼称を用いてますが、これは単に労働によって賃金を稼ぐ事を目的とはせずに、仕事の成果そのものを目的とする労働者を指します。主に高度な技術者や職人、専門職などであり、分析屋もその範疇とします。

 

私も比較的、いろんな組織を見てきた者ですが、転職回数が多すぎるからではありません。仕事柄、人事や組織データにも触れてきまして、組織というものも、洞察の対象でした。その中でも知的労働者のコントロールはもっとも難しいテーマです。私の観点でいうなれば、自分より賢く強い者をどうマネジメントするのか。私(あなた)はどうしていけばいいのか。知識労働者の現場で、よくある知的労働者の陥りがちな点を実務者視点で指摘します。もちろん異論はみとめまくります。毎度毎度、やたら長くてごめんなさいね。これ、自分への備忘録と戒めでもあるんで。

 

#1: ロックスターなエンジニアになる (たとえば、著名なデータサイエンティストになる)

 

有名無実です。

 

こういうのって、テクノロジー系ベンチャーの経営者が、プログラミングもできないのに英語だけバリバリなような、成功本書いているわりに著者はあんまり成功していない感じの、悪くないけど微妙です。誤解してほしくないのですが、有名になってはいけないとか偏屈なことを言っているのでありません。有名になりたい方、なれる実力ある方はぜひどうぞ。ここで話したいのは、有名への道を歩むとき、あなたの実務にとっての終焉を、理解して割りきれていますかという話です。

 

ロックスターエンジニア問題は米国でちょこっと話題になりましたが、本記事での範囲は、実力か運か、あるいはソーシャルな努力かなにかで有名さ(+演技上の、見せかけの自由)を獲得した者とします。

 

誰もがわかっているけど言いにくい事実として、知識労働は、あるレベルに達すると、有名さと実力が反比例します。実績を示してテンポラリに話題になる程度なら問題ではありませんが、一挙一投足まで注目される=どうでもいい話題にまでコメント求められる、ようになったら知識労働者としてはオシマイです。全盛期に女子大生に囲まれて恋愛作法の演説ぶっていた某ネットベンチャー社長の会社は風前の灯です。もちろん例外はいますが、そういった方々は1%以下の希少種なので、95%の一般人には参考になりません。

 

ようするに、有名になるとは、名声という無形で正体ないものに一定のコストを支払ってくれということです。ソーシャルキャピタル社会関係資本)と言われて久しいですが、負債(liabilities)が無視されすぎています。その証拠に、Twitterで店の冷蔵庫を晒してみれば、相応の負債が振りかかってきます。名声の質がなんであれ、さらなる名声獲得と維持のため、あなたの知名度は、あなた本人と分離して次々にゲットモア(get more)を叫び、あなたの時間とお金と精神力を要求してきます。ですから、そのコントロールとして、一定のコストを超えてきたら、それ自体を仕事にしなくてはなりません。こういった性質上、名声の獲得、それ自体を仕事とする芸能人や、それに近い一部のロックスター経営者とは相性が良いものでもあります。

 

ですが、知識労働者とは、やはり相性が悪いです。有名人であるほど、同じような業界で同じような体験をするため、表明している考えも似てくる傾向があります。一般人からは、途方もない考え方に見えても、業界エグゼクティブ内では普通にアーリーアダプター、二次流用者でしかないことも多いのです。上位の知識労働者ならば、彼らへの一次情報提供者だったりするのでそれがよくわかりますよね。ビッグデータクラウドに限らず、昔からIT系のバズワードって、ぶっちゃけ、このバイアスが強いだけだと思います。例えば、米国に行った日本の知識層が影響受けて(←たいていは危機感)国内ブームが仕掛けられる。そういう模倣も悪くありませんが、そのままではオリジナルの無さから二流以上になれませんから、競争においては致命的です。また有名さとは、あなたをよく知らない外野な人達の期待値の大きさでもあります。よく知っている関係者の期待値ではないことに注意ください。外野の期待に応え続ける道化も一興でしょうが、手から技術もこぼれ落ちていくでしょう。

  

#2: やたらと透明性を強調し、透明性のあるデータや、情報の開示を求める

 

ないものねだりはやめましょう。

 

最近は国の立法やゴシップの影響で、責任などのトレードオフが無視されてて嫌な感じです。さておき、ビジネスにおける普通の取引では、求めるならば与えることを確約する必要があります。もう当然にギブアンドテイクです。あなたが相手にたくさんデータや情報開示を求めるのならば、あなたは相手に負担を押し付けているのです。ならば相応の利得を相手に与えなければなりません。慈善事業はありません。最初は共通の趣味や提携なんて上辺だけのやりとりでも良いでしょう。しかし、裸になってくれと要求するからにはこちらもリスクを負わねばならないのです。

 

もう一つ、ニート論や失業率に関する統計の危うさ、経済や年金の計算根拠の脆弱さを見てもそうであるように、すべてのデータも情報も、アルゴリズムや分析も目的にしたがって恣意的なものでもあります。有限が無限を網羅できません。本来、数学や技術は中立でしょうが、すべては恣意的なのですから、その出力も何かしら偏っています。大学のように偏りを解きほぐす作業に時間を費やしてばかりもいられません。ですから一生懸命に、透明性を叫んでも空回りです。特に、分析屋ならば、自分の仕事を放棄しているようにしか聞きとってもらえません。

 

また、開示できない情報に、開示要求するほど、あなたは疎んじられ、煙たがられます。開示できるがコストの高い情報なら、相手の期待値を無駄に押し上げる行為でしかありません。つまり、要求すればするほど戦いは不利になります。

  

#3: ブログ/ソーシャルメディアなどでテクノロジーについて発信する

 

愚かです。

 

異論は認めまくりますが、寒いからと自分の家の柱を壊して焚き火にくべる行為に見えてしまいます。その場しのぎの暖かさはありますが、最終的には家(拠り所)がなくなるでしょう。研究者や意識の高い方なら、こんな意見は間違っていると思って当然です。しかし、わかってほしいのは、これは単にスコープの問題だということです。グローバル全体の推進と向上を目的にしていれば、私の言うことは明らかに間違いです。しかしながら、ビジネスとは極論、ローカル(縄張り)なのです。サービスや商品、会社や組織、あるいは個人の差別化が必要なのですから、共有すべきものとすべきでないものがあって当然です。そして、共有してもよいものであったとしてもテクノロジーには別の問題もあります。例えば陳腐化の速度です。テクノロジーといっても、ほんの一部を除いて、大半はブームにすぎないので早々に顕れては消えていきます。長年、コストを支払って、それについていくことができるでしょうか。そして発信を辞めた後はコンテンツも陳腐化していくのでさらに微妙です。できる方こそ偉大と思いますが、ほとんどの方には無理でしょう。私もまったく根気ないので10年ほど前に諦めています。

  

#4: カンファレンスで事例について話す

 

かなりズレてます。

 

スピーカーはその問題のスペシャリストでもあったりしますが、ゆえに視聴者と問題意識に天地の差があります。そしてイノベーション性が高いほど、再利用できる汎用性ある事例というのも、なかなか存在しません。そこで技術職にとってのスピーチは二択になります。凡庸なテーマをわかりやすく語るか、特殊なテーマをわかりにくいけど語ってみるか、です。時間は有限である以上、そこがトレードオフです。実際のところ、簡単に伝わらないものにこそ他人が見つけていない価値が残っています。

 

クライマックス法のように最初に耳障りの良いことを言ったとしても、高度であるほど、たいして価値は伝わらないでしょう。レベルが同じと仮定するならば、皆がつまらなそうにしているスピーチほど価値が潜むはずですが、そうなるとそれは伝統的な学会活動と同じです。退屈と真面目を許容する以上、集客が望めなくなって本末転倒です。また、その手の教育産業にも似たようなことが言えます。初心者に1時間でデータベース構築や、多変量解析を教えますなんて、わかった気にさせるだけで、ほんとに教える気ないですよね。

  

#5: 余力をなくす あるいは 余力がありすぎる

 

最悪です。

 

世の中には余裕をなくして戦わせることを常とさせる仕事のほうが多いでしょう。その多くは時間内にどれだけ労働できるかを競う=最適化された仕事です。しかし知識労働は、有限リソース内で、どれだけ成果を出せるかを競う仕事です。目先の仕事だけに奪われているようでは高度な成果は出せません。イノベーションとは新しい組み合わせ、だというのなら、常に組み合わせを試す必要があります。それは一部の例外の除き、余力から来る思考と体験の産物です。知的に暇な人間(怠惰ではありません)ほど独特な視点を持っており、価値を産みやすいのは事実です。その点からも、革新には変人が必要なのは事実です。一方、余力がありすぎるというのは論外です。その余力とは単にサボることによるモラトリアムのことです。止まっていると景色が変わらないように、新しい景色を見ることができずに何事もつまらなくなります。

 

#6: 専門職を大勢雇う (分析者を大勢雇う)

 

実はそんなに仕事はありません。

 

今年はブームに乗っかって多くの組織にも実感あるかもしれません。誤解なきよう言い直すと、雑多な仕事はたくさんあふれていますが、専門的な仕事しか選べない人が多くいても、用事がないということです。データがなければ分析できません(代わりに高度な分析技術が使えます)という方は、実社会での出番は少ないのです。専門性の高さと汎用性の低さから、不遇を感じて転職しても、そういう人は、やはり出番は少ないです。

 

はっきり言いますと、ほとんどのケースで、準備:実測:分析(調整)といったPDCAがあるならば、5:3:2です。にもかかわらず、経営の都合からなのか、組織構成比で2:2:6など歪な組織が増えました。ぶっちゃけると、データがあるから分析してみてというケースはビジネスではたいして重要ではないです。いかにしてデータを作りだすのか、という事前で次善を考えたシステムの設計が、実際の分析よりも断然に競争にとっては重要なのです。

  

#7: 内容について話せなくなる

 

困ります。

 

それなりの知識労働者であれば、その性質上、会社や個人の人生を激変させる情報や機密の一つや二つ、ひょっとすると数えきれないほど握っているものです。だからといって情報を隠してばかりでは消耗してしまいます。ストレスもたまります。あいつに聞かなきゃわからなくて困るという属人問題は、わからない側の理屈だけでなく、わかっている側の理屈でもあります。教えまわって制限なく時間を奪われていては、組織の養分になって干からびるでしょう。しかしながら共有も難しい大人の事情があるからこそ、重要な情報だったりするわけなのですから、日頃から少しずつでも話せるようにしておきましょう。95%の一般人にとっては秘密はほどほどに。開示もほどほどに。です。

  

#8: ステークホルダーを無視して、何かに目覚める

 

冷静になりましょう。

 

顧客も会社も神様ではありませんが、これは天に向かって唾吐く自爆行為です。そもそも誰に何を応えるつもりで始めたのか再確認してください。データや希少な情報を眺めていれば、面白い一次情報の発見もあるかもしれません。それは夢見た技術かもしれません。しかし、あなたがいじっているデータや情報に所有権がないのなら、やはり公表してはならないのです。そのように現在の日本の社会制度は設計されています。

 

ある日、こんな会社に自分はいるべきではないと覚醒するかもしれません。そう思うのなら、なおさら、その仕事はきっちりと完遂させましょう。その後ゆっくり、今後も、飯が食っていけるかどうか再考しましょう。たいていは思ったほどでもなくなっています。飯を食べ続けていく観点では、スキルや名声よりも遥かに、信用が大事なのです。

  

#9: 儲かっているフリをする 頭の良いフリをする

 

無駄です。

 

本当に儲かっていたり、賢い方なら、それをするわけがありません。「無料で儲かる方法を教えます」という宣伝がただの愚者であるように、同じレベルの残念です。そういうもったいない方がよく出現していますが、まったく無駄な行為です。人間は社交において、例えば会社だけでなく、交流会や勉強会ですごい人と思われたい気持ちもあるでしょう。時には、賢者のように振る舞いたくもなるでしょう。しかし、目的から遠ざかる行動です。頭は悪く見えるほうが情報は引き出せるし、儲かっていないように見えたほうが、交渉の余地が広がります。賢さをウリにしてゲットしてくる案件は売上のわりに要求が高いものです。「もっと私を儲けさせてください!」という経営者や、「私は賢いですからおまかせください」と得意顔している分析者が、良い仕事に恵まれることは、まずありません。エリートっぽいのに使ってみたらボンクラだとバレるよりも、昼行燈でも、やるときはやる奴だと思われたほうが、断然、お得なのです。

 

 #10: 別の会社にいってしまう

 

あなたの実力は半分以下に落ちてしまいます。

 

新天地での実力の回復には1~3年を要するでしょう。それでいいのなら問題ありません。なぜ実力が落ちるのかと言えば、もういい加減に真実を言いますが、どこにでも通用する汎用的で高度なスキル(あるいはセクシーな職業)だとかいうのはすべてファンタジーだからです。ほとんどの人間にとって実力とは、環境と地位に根差したものであり、今現在、それを武器にして働いているのです。したがって武器の半分は置いていくのだから、実力は減って当然です。懸念しているのは、転職するなということではなくて、この統計的にも明らかな事実を、あらかじめ許容できていないと、転職先でも長続きしないということです。この程度は知識労働者なら当たり前に、試算して覚悟を持って臨むべきでしょう。逆に言えば、転職して実力が発揮できないのは当然です。地道な成長を期待して、とりあえずは暖かい目で見守るしかありません。

 

 

 

以上、長々と今年納めとしてまとめてみました。文句ばっかりいってきてごめんなさいね。このブログでは、だいたい、やることも達成したんですが、来年も、もう少しだけ続く予定です。

 

来る年のあなたのご活躍をお祈りしております。 

 

 

 

 

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http://negative.hateblo.jp/entry/2013/12/18/180537

年末進行その2。わけあって、この手の情報を蒐集したくて、このブログやってみました。

 

 

参考文献

 

GitHubの組織が成長する過程で変えたことと変えなかったこと

http://wazanova.jp/items/675


How GitHub (no longer) Works

http://zachholman.com/talk/how-github-no-longer-works/

 

中身はまったく違いますが、すばらしい記事です。感動して一部のフレームをリスペクトしました。